2025.9.2| 矯正相談集
「出っ歯ぎみ?」「歯並びが気になる」とご相談いただいたN.Mさん(7歳・女の子)のケース
今回は、上の前歯がやや前方に出ている印象(出っ歯傾向)を心配して来院された7歳の女の子、N.Mさんの初診相談時のやり取りをご紹介します。過去には指吸いが6歳頃まで癖として残っていたとのことでした。単に並べるだけではない、顎の成長と年齢の関係、噛み合わせを見据えた相談内容についてもお伝えします。
患者様情報
年齢 | 7歳 |
性別 | 女の子 |
初診時の画像診断



前歯と奥歯に出っ歯さんの傾向があります。上あごの前から2番目の歯(側切歯)はまだ生えていません。側切歯が生えるスペースは十分でないため、将来的に歯並びにガタガタ(叢生)が予想されます。
乳歯が歯ぎしりなどによりすり減ることで、噛む面が平らになっています。
ご相談のきっかけ
これまで通っていた一般歯科の先生から「矯正治療が必要かもしれません」と指摘を受けていたものの、具体的な治療内容や進め方について詳しく聞く機会がなかなかありませんでした。そこで今回は、矯正専門の歯科医院でしっかりと説明を受け、今後の治療方針を検討したいと考え来院されました。
患者様との実際のやり取り
はじめまして。今、一番気になっているところを教えていただけますか?
前歯が前に出ているのが気になっていて、通っていた一般歯科の先生からも『将来的に矯正が必要になるかもしれません』と言われていました。小さい頃に6歳くらいまで指しゃぶりをしていたので、それも前歯が出てきた原因なのかなと心配しています。
そうですね。出っ歯については、まず顎の骨の位置関係を見ることが大切です。N.Mさんは上顎がやや前、前歯も前方傾向です。奥歯の関係を見ると、本来は上の山と下の谷が嚙み合う“山谷”が明瞭ですが、乳臼歯がすり減って平らになっており、どこでも噛めてしまうため下顎の位置が定まりにくい状態です。
指しゃぶりの影響もありますか?
過去の指しゃぶりも前歯の出っ歯の原因の一つになりますが、骨格的にも出っ歯の傾向が根本にあると考えます。乳歯の摩耗自体は小児では“よくあること”で、永久歯へ生え変わると改善していく例が多いので、過度に心配は要りません。ただし今後の歯ぎしりは永久歯を摩耗させるため注意が必要です。
なるほど…。治療はどんな流れですか?
ポイントは2つ。①歯列の“横幅”を広げて叢生(ガタガタ)を解消すること、
②前後的なズレ(上顎前突傾向)を成長誘導で整えること。
横幅の拡大はワイヤーを使った固定式の装置、または取り外し式の床装置など複数の選択肢があります。どれも“拡げる”という目的は同じで、生活スタイルに合わせて選びます。
前後的なコントロールは、上顎の成長を抑制・コントロールするヘッドギア等を検討します(就寝時のみ装着)。上あごの成長を抑えつつ、下顎の自然成長を誘導することで、上下の顎の前後関係のバランスを改善していく狙いです。
いつ始めるのが良いですか?
出っ歯さんの骨格タイプでは、8歳前後がひとつの狙いどころです。側切歯の萌出時期が目安になるため、その頃に精密検査(セファロ分析など)を行い、ベストな開始時期を見極めます。以降は年1回程度のレントゲンで成長と歯並びの変化を見落とさないようにしながら、矯正治療を進めていきます。
放っておくと困ることはありますか?
上の前歯が前に出ていると、転倒時に前歯が折れやすいリスクが増えます。また前歯で麺類などが噛み切りにくいなど、機能面の不便も起こりやすいです。大きなトラブルになる前に“成長を味方に”整えるのが小児矯正の利点です。
なるほど、そういう理由なんですね!一度、家族で検討してきます。
まとめ
N.Mさんのケースでは、
- 現時点での課題は「上顎前突傾向と将来的なガタガタ」であり、拡大装置とヘッドギアで歯列を整えることが有効である
- 歯の生え変わりの状況をしっかり把握しながら、矯正治療を行うベストな時期を見逃さないことが重要です
という相談結果になりました。
今回の診察では、「前歯が出ている」という見た目の不安だけでなく、乳臼歯の咬耗や噛み合わせの不安定さといった背景にも触れながら、顎の成長期だからこそ可能な治療法についてご説明しました。小児矯正は、歯を抜くことなく顎の成長を味方につけて土台を整えられる大きなチャンスです。永久歯が生え揃う前に始めることで、将来的に安定したかみ合わせときれいな歯並びにつながります。
この記事の監修者情報
吉田 尚起
日本矯正歯科学会認定医
院長である吉田なおきは、国立大阪大学歯学部、および同大学院にて矯正治療を専門に学び、博士号を取得。大学病院にて7年間にわたり研鑽を積み、300症例以上の矯正治療に携わってきました。
自身も歯並びのコンプレックスを克服した経験から、見た目の美しさだけでなく、噛み合わせや心身の健康を考えた治療を心がけています。
歯科医師全体の約3%しか取得していない日本矯正歯科学会認定医として、お子様から大人の方まで、未来の笑顔をサポートします。
