2025.10.9| 矯正相談集
「歯が足りないのと噛み合わせが深い気がして…」とご相談いただいたT.Mさん(11歳・女の子)のケース
「下の歯がほとんど見えないほど前歯が深くかみ合っている」「歯が足りないと聞いて心配」──お子様の歯並びやかみ合わせで不安を感じている親御様は多くいらっしゃいます。
今回は、「噛み合わせが深い」ことを気にされて来院された11歳の女の子、T.Mさんとの初診時のやり取りをご紹介します。歯をきれいに並べるだけでなく、上下の歯の本数やバランスまで考えた相談内容についてもお伝えします。
患者様情報
年齢 | 11歳 |
性別 | 女性 |
初診時の画像診断



上の前歯が後方に傾くことで前歯が噛んでいます。前歯が後方に傾くことで噛み合わせが深くなっています。
下の左右の前から2番目の歯がもともとありません(先天欠如)。
ご相談のきっかけ
T.Mさんは「下の前歯の本数が足りない」「前歯の噛み合わせが深く、下の歯がほとんど見えない」とかかりつけの歯科医院で指摘を受け、矯正専門のクリニックを紹介されました。
歯並びのガタつきや、左上の歯がしっかり噛み合っていない点も気になっており、以前にも矯正専門の他院で相談経験はありましたが、「いつ始めるのがよいか」「治療はどれくらい続くのか」といった具体的な点が不安で、セカンドオピニオンとして当院へご相談いただきました。
患者様との実際のやり取り
はじめまして。今、一番気になっているところを教えていただけますか?
はい。噛み合わせが深くて、下の歯がほとんど見えないんです。歯が足りないとも言われていて、今後どうすればいいのかが気になっていて…。
そうですね。実際、T.Mさんの場合は下の前歯が2本先天的に欠損しているという特徴があります。歯が足りない分、スペースが生まれてガタつきは少ないのですが、上下の歯の本数が合わないことで、かみ合わせや歯の傾きに影響が出ていますね。
特に上の前歯は、噛み合わせを保とうとして内側に傾いており、その結果、歯茎が見えやすくなったり、前歯が長く伸びたように見えたりしています。
歯が2本足りないと、どんな問題があるのでしょうか?
下の歯が足りないため、上の前歯がなんとか噛もうと手前に大きく傾いています。そのため噛み合わせが深くなったり、前歯の出っ歯感が強調されています。奥歯のかみ合わせ自体はとても良好なので、前歯の本数を上下で合わせるために、上の歯(小臼歯)を1本抜いて本数をそろえるというのが治療方針の選択肢になります。そうすることで、上の前歯の傾きを正しい位置に整えながら、上下で自然に噛み合うようにしていくことが重要になります。
治療にはどれくらいの期間がかかりますか?
ワイヤーやマウスピースを使ったメインの矯正治療は約2〜3年です。その後、歯並びが元に戻らないようにするリテーナー(保定装置)を約2年間使用します。保定装置を使用する期間は通院頻度も数ヶ月に1回に減っていきます。
その後、親知らずや生え変わりの影響はありますか?
親知らずは18歳前後に生えてくることが多く、エビデンスはありませんが、場合によっては歯並びに影響することもあります。その際は抜歯を検討することでリスクを減らせますので、将来的な対応も含めて見守っていくことになります。メインの歯を動かす矯正治療自体は中学生の間に終わるイメージです。
わかりました。ありがとうございます!検査の予約をとって帰ります。
まとめ
T.M.さんのケースでは
「深い噛み合わせ(過蓋咬合)」や「下の前歯が見えない」といった症状の背景には、下の前歯が2本先天的に欠損していることによる上下の本数バランスのずれが関係していました。このようなケースでは、上顎の抜歯を併用して上下の歯の本数を揃え、かみ合わせと見た目の両方を整える治療が有効です。
治療の際は、単に歯を並べるだけでなく、歯の軸の傾きや歯茎の見え方、前歯の突出感などとのバランスを総合的に判断することが重要です。必要に応じて、歯を引き上げる補助的な力(矯正用アンカースクリューなど)を活用することで、より理想的な仕上がりを目指すことも可能です。
今回の相談では、「噛み合わせの深さ」や「歯茎の見え方」といった見た目の悩みだけでなく、歯の先天欠如による上下の歯並びのバランスへの影響、親知らずの管理、将来的な後戻り防止策まで、長期的な安定性と機能性を見据えた多角的なご説明を行いました。
小児〜思春期の矯正治療は、歯をきれいに並べることにとどまらず、将来的な噛み合わせの土台や顔貌のバランスを整える大切な治療です。T.M.さんのように、歯の本数や噛み合わせに特徴のあるケースでも、適切な治療計画を立てることで、機能面・審美面の両立が可能になります。
「噛み合わせが深い」「歯が足りないと言われた」など、お子様の歯並びで気になることがある方は、ぜひ一度ご相談ください。お子様一人ひとりの成長と状態に合わせた最適な治療法をご提案いたします。。
この記事の監修者情報
吉田 尚起
日本矯正歯科学会認定医
院長である吉田なおきは、国立大阪大学歯学部、および同大学院にて矯正治療を専門に学び、博士号を取得。大学病院にて7年間にわたり研鑽を積み、300症例以上の矯正治療に携わってきました。
自身も歯並びのコンプレックスを克服した経験から、見た目の美しさだけでなく、噛み合わせや心身の健康を考えた治療を心がけています。
歯科医師全体の約3%しか取得していない日本矯正歯科学会認定医として、お子様から大人の方まで、未来の笑顔をサポートします。
