2026.4.15| コラム
抜歯矯正を経験した矯正専門医院の院長の本音― 私自身の「後悔」から、これから矯正する方へ伝えたいこと ―

矯正相談に来られる患者さんから、よくこんな質問を受けます。
「抜歯矯正って、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「あとで後悔することはありませんか?」
実はこの質問に対して、私はとても複雑な気持ちになります。
なぜなら——
私自身が、抜歯矯正を経験しているからです。
そして正直に言うと、今でも少し後悔している部分があるからです。
まず最初に誤解しないでいただきたいことがあります。
私の歯並びは、矯正治療によってとても綺麗に整いました。
咬み合わせも問題なく、歯科医師として見ても完成度の高い仕上がりです。
治療してくださった先生には、今でも本当に感謝しています。
しかし、それでも私は時々こう感じることがあります。
「口元が、少し引っ込みすぎているのではないか?」

鏡で横顔を見るたびに、ふとそんな違和感を覚えることがあるのです。
目次
私の矯正治療は「抜歯矯正」でした
矯正前の私の歯並びは、いわゆる八重歯でした。



左上の犬歯が外側に飛び出し、歯並びにガタガタがありました。
さらに、実は私は
下の前歯が1本生まれつき足りない(先天欠如)
という状態でした。
そのため、
• 上下の歯の本数が違う(下の歯が1本足りない)
• 上下の前歯の中心がずれている
• 歯並びがガタガタ
という問題がありました。
この状態を整えるために選択されたのが、抜歯矯正です。
抜いた歯は
• 上の歯2本
• 下の歯1本(下の歯は1本先天欠如のため)
合計3本でした。
私が矯正治療を始めた理由
矯正を始めたのは、小学校6年生の頃でした。
きっかけは、子どもの頃に通っていた歯医者さんです。
その先生が本当に優しくて、
「こんな歯医者さんになれたらいいな」
そう思ったことが、私が歯科医師を目指したきっかけでもあります。
矯正治療は、いくつかの矯正専門医院で相談を受けました。
そして最終的に、
日本矯正歯科学会認定医の先生のもとで治療を受けることになりました。
その先生が、私にこんな言葉をかけてくれました。
「矯正は、お母さんのためでも、お父さんのためでもない。
君自身のためにする治療なんだよ。」
小学生だった私に、先生は真剣に向き合ってくれました。
私はその言葉に心を打たれ、
この先生に治療をお願いしようと決めたのです。
約2年間の矯正治療
診断の結果、私は
• 八重歯による歯並びのガタガタ
• 下の歯が1本少ない
• 横顔の口元は標準
という状態でした。
そして、歯並びを整えるためには抜歯矯正が必要と診断されました。
ワイヤー矯正で約2年間。
月に1回の通院。
ワイヤーを締めた週は、噛むと痛くて大変でした。
母がお弁当をおにぎり中心にしてくれていたことを、今でも覚えています。
そして治療は無事に終了しました。
歯並びも咬み合わせも、とても綺麗になりました。

歯科医師になってから気づいた「違和感」
それから年月が経ち、私は歯科医師になりました。
さらに矯正治療を専門に学び、
日本矯正歯科学会認定医を取得しました。
そして多くの患者さんの矯正相談を受けるようになったとき、
私はある違和感と向き合うことになります。
患者さんに説明するとき、私はこう話します。
「口元を引きすぎないために、非抜歯という選択もあります」
「Eラインを基準に口元のバランスを考えます」
「口元を引きすぎると、ほうれい線が目立つことがあります」
そう説明している自分の言葉が、
ある日ふと自分自身に向けられていることに気づいたのです。
「……自分の口元は、引けすぎているのではないか?」

その疑問は、次第に強くなりました。
そして私は思いました。
「もしかして、自分は矯正治療の失敗例なのではないか?」
抜歯矯正で後悔が生まれる理由
私が感じている後悔は、歯並びではありません。
口元の変化です。
抜歯矯正では歯を後ろに移動させるため、
口元が引っ込みやすい
という特徴があります。
もちろんこれは、すべての人に起こるわけではありません。
しかし
• 口元の設計
• 歯の移動量
• 顔の骨格
によっては
「引っ込みすぎる」
という結果になることがあります。
そしてこれは、
歯並びだけを見ていると気づきにくい問題でもあります。

もし今の私が自分を診断するなら
私が矯正治療を受けたのは約20年前です。
この20年で矯正治療は大きく進化しました。
特に
• 矯正用アンカースクリュー
• マウスピース矯正

これらの装置によって、
抜歯をしなくてもスペースを作れるケースが増えました。
もし今、矯正専門医院の院長として
過去の自分を診断するなら
私は次の選択肢を提示します。
① 非抜歯矯正
② 最小限の抜歯
③ 抜歯矯正
つまり
「抜歯以外の選択肢」も必ず提示します。
抜歯矯正で後悔しないために大切なこと
抜歯矯正は、決して悪い治療ではありません。
むしろ
• 口元が前に出ている
• 歯並びのガタガタが強い
場合には、抜歯矯正が最も美しく仕上がることもあります。
大切なのは
本当に抜歯が必要なのか
を慎重に判断することです。
そのためには
• 非抜歯の可能性
• 抜歯した場合の口元の変化
• 治療後の横顔
これらを治療前にしっかり検討することがとても重要です。

私が矯正治療で大切にしていること
私は、自分の経験から学びました。
矯正治療は
歯並びを整える治療であると同時に
人生に関わる治療でもある
ということを。
だからこそ私は
• できるだけ非抜歯で並べる方法を検討する
• 抜歯する場合は口元の変化を丁寧に説明する
この2つをとても大切にしています。

抜歯矯正で後悔しないために
もし今
「抜歯矯正が必要」と診断されて悩んでいる方
がいらっしゃるなら、
一度立ち止まって
• 本当に抜歯が必要なのか
• 他の方法はないのか
• 治療後の口元はどうなるのか
をしっかり確認することをおすすめします。
矯正治療は
一度始めると後戻りが難しい治療です。
だからこそ、
納得してから治療を始めてほしいと思っています。
私自身の経験が、
これから矯正治療を考えている方の参考になれば嬉しいです。

この記事の監修者情報
吉田 尚起
日本矯正歯科学会認定医
院長である吉田なおきは、国立大阪大学歯学部、および同大学院にて矯正治療を専門に学び、博士号を取得。大学病院にて7年間にわたり研鑽を積み、300症例以上の矯正治療に携わってきました。
自身も歯並びのコンプレックスを克服した経験から、見た目の美しさだけでなく、噛み合わせや心身の健康を考えた治療を心がけています。
歯科医師全体の約3%しか取得していない日本矯正歯科学会認定医として、お子様から大人の方まで、未来の笑顔をサポートします。
