2026.6.24| 叢生(ガタガタ)の矯正相談集
「折れた歯を抜いた後、矯正で隙間を閉じられる?」とご相談いただいたA.Uさん(44歳・女性)のケース
「歯の根が折れていると言われた」
「抜歯した後、人工の歯を入れるべきか、矯正で隙間を閉じるべきか迷っている」
「年齢的に、今から矯正して歯がもつのか心配」…。
成人の矯正相談では、単に歯並びを整えるだけでなく、すでに治療済みの歯や歯周病の状態、抜歯が必要な歯を今後どう補うかまで含めて考える必要があります。
今回は、左上の歯の根が折れてしまい、抜歯後の治療方法についてご相談に来られた44歳女性、A.Uさんとの初診相談時のやり取りをご紹介します。
矯正でスペースを閉じる方法が選択肢になる一方で、成人矯正ならではの注意点についてもお伝えします。
患者様情報
| 年齢 | 44歳 |
| 性別 | 女性 |
初診時の画像診断



上下の歯並びにガタガタがあります。
お口元が少し出たお顔立ちです。
すでに虫歯や神経を治療済みの歯が数本確認できました。
ご相談のきっかけ
A.Uさんは、
「左上の歯の根が折れていると言われた」
「抜歯後に人工の歯を入れるのか、矯正で隙間を閉じるのか迷っている」
「年齢的に矯正治療に歯が耐えられるのか心配」
とのことでご来院されました。
すでに他院でも、抜歯後にダミーの歯で補う方法と、矯正治療でスペースを閉じる方法について説明を受けられていたとのことでした。
患者様との実際のやり取り
はじめまして。今、一番気になっているところを教えていただけますか?
左上の歯の根が折れていると言われていて、抜かないといけないかもしれないと聞きました。
レントゲンやお口の中を確認すると、左上の歯は深いところで根が折れてしまっています。
歯の根が深い位置で折れてしまうと、抜歯という選択肢が出てきます。
やっぱり抜くことになるんですね。
歯が折れてしまっている場合、歯科医師としても残すのが難しいです。
そのため、抜歯という判断自体は致し方ない部分があると思います。
その上で大事なのは、抜いた後のスペースをどうするかです。
人工の歯を入れる方法と、矯正で隙間を閉じる方法があると聞きました。
そうですね。
抜歯後の選択肢としては、人工の歯で補う方法と、矯正治療でそのスペースを閉じる方法があります。
A.Uさんの場合、矯正でスペースを閉じることもできます。
ただし、左上の歯だけを抜いてその隙間を閉じると、歯の真ん中がずれてしまったり、かみ合わせのバランスが崩れてしまいます。
そのため、矯正で進める場合は、基本的には左右のバランスを見ながら、他の歯の抜歯も含めて計画を立てる必要があります。
他の歯も抜く必要があるんですね。
左右対称に抜くことで、歯並びやかみ合わせのバランスを整えやすくなります。
また、A.Uさんの場合、お口元が少し前に出ている印象もあります。
抜歯を伴う矯正では、前歯を後ろに引くことができるため、口元がすっきりして、口が閉じやすくなります。
歯並びだけでなく、口元の印象も変わるんですね。
はい。
もちろん歯を抜くこと自体は残念なことですし、簡単に決めることではありません。
ただ、もともと抜歯が必要な歯がある場合、そのスペースを矯正治療に活かせます。
一方で、成人矯正では注意しなければならないこともあります。
年齢的に、歯が矯正に耐えられるのかが心配です。
そのご不安はとても大事な視点です。
成人矯正で特に確認したいのが、歯周病による骨の支えの状態です。
歯は骨に支えられています。
骨の支えが十分にある場合は、歯を比較的まっすぐ動かしやすいのですが、骨の支えが少なくなっていると、歯が真横に動くというより、少し倒れながら動きやすくなります。
歯周病があると、矯正はできないんですか?
歯周病があるから必ず矯正できない、というわけではありません。
ただし、歯周病の状態を確認しながら、強すぎる力をかけず、慎重に歯を動かしていく必要があります。
A.Uさんの場合、重度という状態ではありませんが、年齢相応に骨が下がっている部分や、局所的に骨の支えが少なくなっている部分があります。
そのため、無理に急いで動かすのではなく、歯の状態を見ながら進めることが大切です。
神経を取っている歯もあるのですが、それは大丈夫ですか?
神経を取っている歯でも、矯正治療で歯を動かすこと自体は可能です。
ただし、神経を取った歯は将来的な寿命が短くなりやすい傾向があります。
また、もともと目に見えないヒビが入っていた場合、矯正治療中や治療後にトラブルが起こる可能性をゼロにすることはできません。
特に被せ物が入っている歯は、歯を削っている量が多いです。
そのため、矯正中に被せ物が外れたり、やり替えが必要になる可能性もあります。
そういうリスクもあるんですね。
はい。
成人矯正では、歯並びだけを見て判断するのではなく、歯の寿命、歯周病、被せ物、神経を取っている歯の状態まで含めて考える必要があります。
ただ、現時点で明らかに矯正ができないという状態ではありません。
リスクを把握した上で、無理のない治療計画を立てることが大切です。
治療方法としては、マウスピースでもできますか?
今回のように抜歯スペースをしっかり閉じていく治療では、ワイヤー矯正の方が適していると思います。
マウスピース矯正では、歯を大きく動かしてスペースを閉じるのが難しいケースがあります。
ワイヤー矯正では、歯に装置をつけて、少しずつ力をかけながら歯を動かしていきます。
必要に応じて、インプラントアンカーという小さなネジのような装置を使い、奥歯が前に動きすぎないように固定することもあります。
インプラントアンカーは怖いイメージがあります。
インプラントアンカーは、歯を動かすために一時的に使う小さなネジのような装置です。
使う場合は、虫歯治療と同じように麻酔をして行います。
治療が終われば外しますし、外した部分の歯ぐきはきれいに治っていきます。
ただし、途中で緩んだり、周囲に汚れがついて腫れぼったくなったりすることはあります。その場合は、状態を確認して対応します。
治療期間はどれくらいかかりますか?
抜歯を伴うワイヤー矯正の場合、平均的には2年から3年ほどが目安です。
また、成人の場合は骨の反応や歯の動き方に個人差があります。
被せ物が外れる、歯に痛みが出る、予定通りに歯が動かないなどのトラブルがあると、治療期間が長くなる可能性もあります。
4年、5年かかることもありますか?
可能性としてゼロではありません。
ただ、順調に歯が動いてくれれば、2年半から3年ほどで進められる可能性は十分あります。
大切なのは、治療期間を短くすることだけを優先しすぎないことです。
無理に強い力をかけて急ぐと、歯が倒れながら動いたり、歯周病のリスクが高まったりすることがあります。
長く歯を残すことまで考えると、必要な期間をかけて慎重に進めることが大切です。
よく分かりました。一度家族と相談してみます。
まとめ
A.Uさんのケースでは、
・左上の歯の根が折れている可能性があり、抜歯後のスペースを人工の歯で補う方法だけでなく、矯正治療で閉じる方法も選択肢になること
・矯正でスペースを閉じる場合は、左右のバランスやかみ合わせ、口元の印象まで考慮し、必要に応じて他の歯の抜歯も含めた治療計画が必要になること
・成人矯正では、歯周病による骨の支え、神経を取っている歯、被せ物の状態などを確認しながら、無理のない力で慎重に歯を動かすことが重要であること
という相談結果になりました。
今回の相談では、「折れた歯を抜いた後にどう補うべきか」というお悩みだけでなく、矯正治療で抜歯スペースを閉じる場合のメリットや、歯の真ん中のずれ、かみ合わせの変化、口元の印象への影響についても詳しくご説明しました。
また、A.Uさんのような成人矯正では、単に歯を並べるだけでなく、歯周病による骨の状態や、神経を取っている歯・被せ物が入っている歯の将来的なリスクまで含めて治療計画を立てることが大切です。無理に治療期間を短くしようとすると、歯が倒れながら動いたり、歯ぐきや骨に負担がかかったりする可能性があるため、慎重に進める必要があります。
成人矯正では、見た目の改善だけでなく、今ある歯をできるだけ長く残すことも大切な視点です。特にA.Uさんのように、抜歯が必要な歯があるケースでは、そのスペースを矯正治療に活かすことで、歯並びや口元のバランスを整えられる可能性があります。
「歯を抜いた後、インプラントやブリッジにするか迷っている」「抜歯したスペースを矯正で閉じられるのか知りたい」「40代から矯正しても大丈夫か不安」という方は、ぜひ一度ご相談ください。現在のお口の状態を確認したうえで、将来的な歯の健康まで見据えた無理のない治療方法を一緒に考えていきましょう。
この記事の監修者情報
吉田 尚起
日本矯正歯科学会認定医
院長である吉田なおきは、国立大阪大学歯学部、および同大学院にて矯正治療を専門に学び、博士号を取得。大学病院にて7年間にわたり研鑽を積み、300症例以上の矯正治療に携わってきました。
自身も歯並びのコンプレックスを克服した経験から、見た目の美しさだけでなく、噛み合わせや心身の健康を考えた治療を心がけています。
歯科医師全体の約3%しか取得していない日本矯正歯科学会認定医として、お子様から大人の方まで、未来の笑顔をサポートします。
